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きのうの世界 / 恩田陸
ーー【 きのうの世界 】ーー
あなたは水無月橋について考えている。これから行くその場所、殺人現場であるその橋のことを。バス停に捨てられていた地図には、赤い矢印が付いていた。まさにこれからあなたが行こうとしている、水無月橋のあるところに。印の付いていた場所で死体が見つかったことで、人々は想像をたくましくした。――<第1章より>
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恩田陸の本で一番好きなのは「ネクロポリス」
「夜のピクニック」から始まって「ネクロポリス」を頂点に、はっきり言ってあまり面白くないのが続いている。それでも新刊が出ると読んじゃうんだよね。
実を言えば、視点が多過ぎる本はあまり好きではない。
それが3人や4人ではないのだ。殺された男(過去、または現在)、事件を調べる私(現在)、町の人々たくさん(過去、または現在)と、第19章まで一章ごとに語り手を変えて物語は進行して行く。
雑多になりがちな方法だが、この本では成功と言える。
小さな支流の話を集めて本流のうねりを作って行くような面白さがある。多くの感情が〈町〉としての集合体として集められ、結末に向けて迫って行くようなスピード感に引き込まれて読み続けた。
「これは私の集大成です」と言うだけあって、かなりの大作である。
『誰も予想できない結末が待っている!!誰も予想できない結末が待っている!!』とあるように、確かに予想できない結末だった。あはは。
いろんな気配に導かれて読み進めてきた結末なのに、塔の存在が合理的なからくりで拍子抜けした。秘密めいた棟の儀式は?焚火の神様は?若月慶吾の分身のあいつは?
三つの塔と、ただならぬ気配をあれだけ盛り上げて来て、これはないだろ。と少し残念に思ったのは事実だ。
ま、恩田陸ですな。面白かったから、いいか。
![]() | きのうの世界 (2008/09/04) 恩田 陸 商品詳細を見る |
- [2009/02/17 12:40]
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ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ / 松浦理英子 他
ーー【 ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ 】ーー
日本の現代作家9人が描いた、源氏物語へのアンソロジー。
松浦理英子の『帚木』、江國香織の『夕顔』、角田光代の『若紫』など9篇を収録。
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『源氏物語』は好きなのだ。心情が細かに語られ姿形心持ち等、想像が容易い女人たちに対して、相対的に浮かび上がって来る光源氏。この対比が面白い。船橋聖一、谷崎潤一郎、円地文子、瀬戸内寂聴、田辺聖子、橋本治、どれもそれぞれの源氏が描かれていて味のあるものである。
さて・・・
帚木(松浦理英子)
正調派源氏。最初がこれだからと油断して読み進めると、後で驚くことになる(笑)
『親指Pの修業時代』や『犬身』など、ぶっ飛んだ本を書いた松浦だが、ここはたぶん源氏の色を尊重したのではないかと思われる。
夕顔(江國香織)
涼しげな江國香織の文体は『夕顔』に良く合う。そしてどこか投げやりで頼りなく愛らしい夕顔は、新鮮な魅力にあふれていて、これなら光源氏も心を奪われただろうと思う。
若紫(角田光代)
源氏から大きく飛んだ。
娼館の下働き見習いの少女が、異国の男にさらわれる話であり。語り手は少女。
もちろん光源氏と紫の上の話である。面白い。この後を読んでみたい。
美しくて恐ろしい源氏のこういう顔も、アリかな。
末摘花(町田康)
これはない。どこがないかと言うと、これは光源氏ではない。下品過ぎる。
むしろパロディとして、源氏物語からもっと脱却させるべきなのか。中途半端にキャラクターを引きずっているために、下衆な感じが残りどうも好きになれなかった。
葵(金原ひとみ)
これも大きく飛躍させた作品。
光源氏の捕らえ所のなさは出ていると思う。
葵はどうだろう。私の葵は、もう少し固く清廉な印象だが。
須磨(島田雅彦)
正調。それなのに確かに島田雅彦の文体で面白い。現代の訳としてしてバランスがとれているのではないだろうか。あえて明石の君登場前に終わらせたのだろうが、もう少し読みたかった。
蛍(日和聡子)
これも正調。俗物になり始めている光源氏を厭わしく思う玉鬘の心情が良く出ている。そう、この段は彼の嫌らしさが良く出てる話なのだ。
柏木(桐野夏生)
女三の宮が語り手。上手い。やっぱり桐野だ。
こう書いてくれれば、女三の宮の行動もすんなり納得できる。
浮舟(小池昌代)
浮舟の独白。おお、こう来たか。このような解釈でなければ浮き舟の入水は納得できないだろう。
薫は順当だが、匂宮をそんな風に書いちゃって。にやり。
![]() | ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ (2008/10/31) 江國 香織松浦 理英子 商品詳細を見る |
- [2009/02/17 12:12]
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私の男 / 桜庭一樹
東京駅の本屋で見かけて最初の何ページかを読んで、そのままになっていた本。
何事か起こりそうな気配に、食指が激しく動いたが、時間切れと現金不足で諦めた本だった。
そう、欲しい本をみんな買ってたらお金がいくらあったって足りないって。
直木賞受賞作なら、そのうちきっと現れるだろ。
そして、めでたく図書館で相見えた。
ーー【 私の男 】ーー
私の男は、ぬすんだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた。日暮れよりすこしはやく夜が降りてきた、午後六時過ぎの銀座、並木通り。彼のふるびた革靴が、アスファルトを輝かせる水たまりを踏み荒らし、ためらいなく濡れながら近づいてくる。店先のウインドゥにくっついて雨宿りしていたわたしに、ぬすんだ傘を差しだした。その流れるような動きは、傘盗人なのに、落ちぶれ貴族のようにどこか優雅だった。
ーーーーーーー(本文より)
濃厚な味わい。立ち読みで事足りるスカスカな受賞作の中で、希有な濃密さ。
どっちにしろ到底立ち読みは無理だったな。
いくつものテーマが絡み合って、それぞれが重い。
バラバラにしたとしても、いくつかの別の物語が成立するであろうテーマだ。
内容が内容だけに、この本に嫌悪感を持つ人も多いのではないかと思う。
粘着系の描写、ライトノヴェル的な表現、詰めの甘さ、これを気味が悪いうえに稚拙と感じる人も少なくはないだろう。でも、この「切なさ」は圧倒的だ。私は、嫌いではない。
語り手を替えながら、第一章から順に時代を遡って行く物語は、「過去」から「現在」に至るまでの謎解きでもある。
25歳の花から遡って、子供の彼女と淳吾を知れば、第一章が分かる。
がんじがらめになった愛情の糸を解きほぐして始まりを探し、手を離せばまた自ずと巻き付いて行くのを見守るような作業だ。
救いのない日々から逃げようともがく「現在」から始まって、唯一無二なものとして父と娘を手を繋ぐ「過去」。その「過去」で物語が終わったのが、救いでもある。
読み終わった後、もう一度第一章を読んで確かめたくなるような余韻が残った。
ちなみに、著者が気に入るかどうかは分からないが、いつの間にか、片頬をゆがませて皮肉に笑う淳吾に豊川悦司を重ねていた。むろん、昔のような痩せた豊川悦司。
![]() | 私の男 (2007/10/30) 桜庭 一樹 商品詳細を見る |
- [2009/01/28 01:15]
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